ロボットの父、80歳過ぎても現役活躍中!

 

 

大永英明

 

2006年6月、ペンシルバニア州ピッツバーグ市で開催された「ロボット・ビジネスコンフェランス」に参加するため北カリフォルニアをあとにした。アメリカ西海岸より東海岸まで直線距離にして約3000マイル。いかに飛行機を乗り継ぐだけとは言え、実に一日がかりの大陸大移動である。多目的の旅行にすべく、急遽、弊社の製品画像検査システムの中国工場への導入を検討中のコネチカット州にある、某アメリカ企業の訪問などをスケジュールに入れた。私をロボット業界のとりこにした張本人に表敬訪問をする日程も組みいれた。

 

コネチカット州は私がアメリカの大学を卒業後初めて就職して社会人となり10余年住居を構えた場所であり、その後1987年よりおよそ10年間移り住んだ先はペンシルべニア州のピッツバーグ市郊外であった。それゆえ、久々にピッツバーグ空港を降り立った瞬間、懐かしさが込みあがった。

 

かくして私の人生の中で携わったロボット開発の軌跡をたどる非常に感慨深い旅が始まった。

 

 

10年ぶりの再会

 

「エイメイ、元気にしていたかい?」あの懐かしく迫力のある、遠くまで良く響くジョーの声だ。場所といい、声といい、まるでタイムマシンで過去に戻ったようだ。

 

ジョーとは、「ロボットの父」と呼ばれている世界的に名高いジョセフ・F・エンゲルバーガー博士の事である。彼はコネチカット州において世界で初めて産業用ロボット製造会社・「ユニメーション」を設立し、世界初のロボット「ユニメート」を世に出した輝かしい功績がある。「オートメーション」を作り出したヘンリー・フォード同様、近代史において現在の製造業にロボットによるオートメーションを現実化させた、私が最も尊敬する人物であり、私の人生を変えて大きく変えた人物でもある。

 

私は、アメリカの大学を卒業後、ユニメーション社に入社した。将来自分が目指すマルチメディアショーを確立させるためにはロボット制御の技術が必須であると考えていたのだ。夢実現のための準備のつもりで就職したのだが、時代はTTLロジックからマイコンへの技術革新の真っ只中、ロボット産業も今のITに負けずハイテクとして注目を浴びる産業であった上、有能な若い人材に面白さを感じられる仕事を多く任せてくれる包容力の大きい企業気質になじんでしまい、結局、夢を先延ばしにながら未だロボット業界にいる自分である。

 

過去に師と仰ぐジョーについて日本の技術提携先を何度も訪問し、彼のビジョンやディベート法など身近で観察することが出来た。また、ジョーも社内での私を次世代制御装置の第一人者として認知してくれていたので、旅行中はいつも将来のビジョンと制御の話であった。

 

エンゲルバーガー氏を訪問する前夜、コネチカット州ダンバリー市に到着した私をバラ女史と彼女の同僚が迎えてくれた。バラ・クリシュナマシー女史は元ユニメーションにおけるVAL言語の開発責任者であった。1982年にユニメーション社がウェスティングハウス社に買収された後、1987年に私は社と共にウェスティング社のあるピッツバーグに移動したが、バラ女史はユニメーション社を離れ、エンゲルバーガー博士が新規に設立したTRCという会社に移り、そこで世界で始めての「ヘルプメート」という病院用のサービスロボットのソフト開発を担当した。

 

「ジョーはまた新しいサービスロボットを考えているらしいわ。」夕食の席でバラ女史は言った。「もし資金が集まり集合がかかれば、私はすぐにでもジョーの下に飛んでいってソフトを全て担当するつもりよ。」私は、翌日の訪問が待ちきれなかった。

 

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「ワインがいいかい?それとも蜂蜜入りのグリーン茶?」ものめずらしさに蜂蜜入りのグリーン茶を頂いた。高齢のためか、勝手口の近いキッチンが生活場所の中心となり、キッチンにコンピューターを置き、そこを半ば書斎のように使っていた。「歳をとって行動範囲が狭くなったが、インターネットのお陰で世界とは常に繋がっているよ。ワッハッハ!」

 

数々の思い出話やかっての開発者達の近況などの雑談で始まった会話は、ジョーの「家庭用サービスロボット」への思いが熱弁でクライマックスを迎えた。

 

「エイメイ、今、私は、人の役に立つサービスロボットを作ろうとしている。全てではないが、今の世界のサービスロボット開発の流れには不満を感じている。家庭で受け入れられるための低価格ターゲット、それがための機能の単一・単純化などがロボット化を遅らせている。」

 

「ひとつの事しか出来ないロボットは、ロボットとしての価値を持たない。多機能性を持ってこそ、真の家庭ロボットと成り得る。メイドだってそうだろう。掃除だけでなく、主人の様々な要望に応えられるメイドが人の求める理想的なメイドなんだ。」

 

「では、コストについて話そう。ベネフィットはコストよりも大きくなければいけない。これは、君も知っているように、私が昔からよく言ったきた事だ。世の中には200ドルから1500ドルもの掃除ロボットがあるが、いくら安くてもベネフィットが無ければ大差ないものだ。逆にいえば、将来の家庭用ロボットに$1500以下という値段がつくわけがない(今の紙幣価値で)。」

 

「例えば、介護が良い例だ。介護のヘルパーを1年間1500ドルで雇えるかい?生身の人間の方が向いている介護は当然あるが、感情のないロボットの方が人間に優しい場合もある。例えば、トイレの補助などだ。当然、人間とロボットがインターアクト(相五作用)しなければいけない。介護する側の家族にとっても自分がするべき仕事と機械が代行しても良い作業とに分けられるはずだ。また、保険の認可が下りれば、個人の負担も軽減するだろう。安いほど一般消費者には良いに越した事がないが、まずは、ベネフィットの価値に比例した基本値段そ設定する事が肝心だ。当然、ベネフィットより高くなれば売れなくなる。」

 

「日本は2足歩行に力を入れすぎている。それ自体は研究に値するものではあるが、現時点の実用性などを考えれば車輪駆動の方がより安定しており、段差のない一階建ての場合には十分に能力を発揮する。エレベータがあれば当然階段を使う必要もない。ロボット工業国の日本が実用性よりも興味中心の二足歩行開発に走りすぎているのは非常に残念だ。」

 

「「ヘルプメイト」と「TRC(会社)」を合わせ売って以来、かなりの年月が経つが、今、私は再び現存する技術を集積して人の役に立つサービスロボット、つまり2本腕の「ロボケア」の開発会社を計画している。現実的なサービスロボットは、双腕、及び、移動、そしてセンサーの機能が必要だ。家庭内作業のほとんどは1本腕ではできない。「ヘルプメイト」を作った時点で、超音波、画像によるナビゲーション技術の開発は完全している。又、ロボットのモーションはじめメカやセンサー等、必要な基礎はすでに世の中に存在する。問題はいかに最新のセンサーをまとめて、ベネフィットのあるものにするかだ。」

 

「その会社設立にあたって、今、投資家を募っている。私の考えるサービスロボットのプロトタイプの作製費は70万ドル。そのうち、私は個人的に20万ドルを出資する。この会社は開発会社として、大手企業などにライセンスをしていくつもりだ。14ヶ月でプロトタイプを作成し、次の13ヶ月に追加の2.3ミリオン・ドル(総額3ミリオン。ドル)によって製品化される計画だ。」

 

 

あとがき

 

共に日本を旅した思い出話や昔の開発者の近況で始まった会話が、ジョーの新しいアイデア話に花が咲き、あっという間に時間がたってしまった。彼の生涯は常にロボットに対する情熱と共にある。現在、最愛の奥方がアルツハイマー病で闘っているため、自らのニーズ体験を踏まえ、介護ロボットの開発と、その普及に一層力を入れておられる印象を受けた。

 

80余歳にして今だ現役起業家であるエンゲルバーガー博士の精神に敬意を払うとともに、今回再び教えを乞う事の出来た喜びを切に感じる次第である。プロジェクトがスタートすれば、自分もその一員に加わりたいという衝動にかられながらコネチカットをあとにし、ニューヨークへ向かった。

 

 

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8/25/06  (6/12/06 – 6/23/06 の旅)

 

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